一夜明けて、ディープインパクトの敗因を考える

凱旋門賞が終わって2 : 須田鷹雄の日常・非日常

一夜明けて、いや明ける前からも色々と敗因の分析とか、今後の日本競馬に与える影響という話が色々と出ていますが、須田鷹雄さんも書かれていますが、この敗戦は日本競馬の根本的な問題から来る、決定的な敗戦では決してない。しかし日本競馬の問題から来る敗因は出来る限り、掘り下げて検討してあぶり出していき、改善出来るところはしていくべきでしょう。
僕はこのレースを「ディープインパクトが今日のレースに負けた」のか「ディープインパクトの全てが負けた」のか「日本競馬が負けた」という風に受け止めるかで、大分と違ってくるのではないかなと思っています。

i. このレースに向かうにあたっての環境に起因する敗因(スタッフワークの問題)
ii. ディープインパクト自身に起因する敗因(本馬の根本的なスキルの問題)
iii. 日本競馬全体、根本的な事に起因する敗因(日本競馬の問題)

これらは分けて検討してみることの重要性について考えてみました。少し一夜明けて出た記事や分析を紹介していきます。

ユタカにまたも世界の壁…凱旋門賞“3度目の正直”ならず : サンスポ.COM

単に日本の最強馬というプロフィールを持っている馬が、初めての海外レースで負けた、さあ次も頑張ろうという流れになるのなら、それは決して「ディープインパクト全部」の敗戦でも無ければ、「日本競馬」全体の敗戦でもないと僕は考えます。ディープインパクトは確かに日本競馬史上最強馬ではあるけど、日本競馬にはハーツクライもいれば、コスモバルクデルタブルースメイショウサムソンもいるし、凱旋門賞はいくつかある世界の競馬の世界一のレースの中でも更に一番のレースですが、しかし決して凱旋門賞だけが世界一のレースではない。
だから今回の敗戦が、なんか日本競馬百年の歴史が世界の近代競馬三百年の歴史に阻まれたというのは大げさであり、この敗戦は「ディープインパクトで勝てないのなら日本の馬が世界一にはなれない」というべきものではない。そもそもディープインパクトに勝つ可能性が全くなかったというような競馬では決してなかった以上、彼に適正がなかったというのなら適正のある馬を連れて行けばいいし、ローテーションや戦術に問題があったのなら、その部分を改善してまた行けば良いんです。
ディープインパクトに現役続行の可能性が示唆されたこと、ハーツクライの橋口調教師からも来年のキングジョージ出走が示唆されました。関係者は「まだ終わらんよ」と言っているのは非常に大きな事です。だから日刊スポーツはこの橋口コラムのタイトルを「日本馬勝てないかも」ではなく、「ディープのかたきを取る」としてほしかったです。この辺はマスコミも含めた日本競馬のナイーヴさなのかも知れませんが。

下策であっても「本来の競馬」をすることの大切さ : 殿下執務室

僕は今回の敗因を一番指摘するのなら須田氏が言うようなディープの「適正」の問題ではなく、やはり陣営の選択した休み明けぶっつけで挑戦というローテーションと、日本でもしたことがない先行策を取ってしまったことが、一番最初に“検討”されるべきではないでしょうか? “批判”や“追求”ではなく、あくまで“分析”ですよ、しかし武豊も自分の騎乗について後悔を残しているようなコメントをしている中で、例えば夕刊フジのような夕刊紙ですら、海外の記事を紹介するという形でしか武豊の騎乗はどうだったのか? という所には踏み込めないという、相変わらずに騎手や調教師の批判はタブーという状況が続いているのは、日本競馬界にとって本当に良いことなのでしょうか? それならば質の低い根拠のない批判記事が大量に出るようになったとしても、そういったタブーが無くなる方が、現在の状況よりは良いのではないかと思う、実際に国内にいたら出てくることなんて決してない武豊の騎乗批判というのに、海外に行くと武豊は晒されるというのは、彼の海外遠征において決して良い影響を与えていないと思うのです。
僕は今回の武豊の騎乗については“騎乗ミス”とまで言うのは酷だと思っているのですが、決してカッツミーの言うように「完璧に乗っていた」とは言えないものだと思います。そしてやはり世界の頂点のレースというのは、“ミスとまでは言えない……”というような競馬ではやはりダメなんでしょう。贔屓目無しに完璧に乗らないとダメなんでしょう。これはディープインパクト武豊だけでなく、ハリケーンランのファロンやシロッコのスミヨンにも言えることでしょうが。
ディープインパクトのローテーションに関しては、殿下が指摘しているように、そもそもベストのステップレースというものは存在したのか? 凱旋門賞への短〜中期における遠征の場合の日本馬のローテーションはテストケースといえるほどの蓄積がない以上仕方ないかも知れませんが、「斤量」「欧州の芝」「ロンシャン競馬場」での実戦経験をディープインパクトがないままに、世界の頂点の凱旋門賞に出してしまったことは、批判ではなく検証・分析の課題とするべきでしょう。それを関係者、厩舎陣営は頑張ったからと、現場取材をしてきた記者さんとかが、実際の遠征の苦労を見ているからと棚上げしてしまってはいけない。
そして武豊騎手に関しては、僕は国際経験の少なさというのが出たんだと思います。武豊のような日本で一番国際経験を積んでいる騎手であっても、やはり世界の一流騎手はほぼ毎週のように国際G1で腕を競い合っている一方で、他の日本人騎手より経験は豊富とはいえ、一年の大半を日本の箱庭競馬で過ごしている騎手とは、やはり互いの全てを出すような勝負になったときに、そういった差は凄く出てしまうもんなんだと思いました。だからこれは武豊個人には決して起因する問題ではなく、日本の騎手の国際競争力の低さという問題について、日本の競馬界は根本的に向かい合うきっかけとしてほしい。既に馬の国際化はある段階に到達した、日本競馬のレベルアップの為にも人の国際化という問題にJRAは着手すべきだと今回改めて思いました。もちろん国際化の前に国内問題(中央・地方の二本立て)という問題の解決が先決ですが。
僕はディープインパクトが弱いから負けたというのには、ここまで読んでもらったら分かるように思っていません。そして須田さんが言う「適正」の問題というのは、僕は本当に埋められない問題なのか、また日本競馬が欧州や北米と違う競馬をやっていることが原因なのか? と考えています。
この辺は全くいつも以上にまともっていない状態で書き散らしますが、というのは現実問題として、適正を越えたところの勝負というのが国際舞台では始まっていますよね、欧州の競馬シーンにおいては、芝とダートの二階級制覇を目指すというムードは出来ているし、適正外と思えるような重そうな欧州血統の馬がジャパンカップBCターフで現実に活躍することだって多々あるわけで、僕はこの適正という点についてはレースの選択とか、実践や調教で経験をさせることで海外の関係者は挑戦し、失敗している例もありながらも乗り越えていってる、そうやって「適正を見極める能力」「適正を越えさせる訓練を課す能力」というのが磨かれているのではないでしょうか?
最近でこそ池江調教師、橋口調教師、森調教師、藤澤調教師と国際経験の豊富な調教師というのは出てきていますが、それでも毎年のようにBCやJC、ドバイに馬を送り込んでいるトップトレーナーと経験豊富と言っても数えれるほどの遠征経験の陣営の差というのは、特にこのような大舞台では大きいのではないでしょうか。
だから僕はチーム・ゴドルフィンのメンバーとなったユートピアがどんなローテーションで、どんな成績を残すのかは重要な実績データとして残るだろうから、是非とも見たいんですが、はやくどっかに出走してよ(笑)。
話を戻しますが、ディープインパクトですら負けたのは、馬の実力、適正ではなく、人の経験値の差というものが出てしまったのではないかと、武豊池江泰郎社台ファームというおそらく日本でもトップレベルに国際経験を積んでいる陣営ですら、国際経験が足りなくて負けたというのが、僕は今度の最大の敗因だと考えていますし、そして現状の日本の競馬のシステムでは日本にいる限り、このトリオ以上の国際経験を積むことは相当に困難でしょう。
もう馬の開放、血統レベルの向上というところでやれることは、日本はもう全部やった、やりすぎると言えるレベルまでやった、それでも勝てないんだったら次は人のレベルを上げることをするべき、日本の生産界は頂点の人達は世界の頂点までいった、じゃあ次は騎手と厩舎に強化の矛先は向けられるべきだと思う、その為には国際競争の波に日本の生産者や日本の血統がさらされたように、騎手と厩舎がさらされるべき、日本の免許制度は全て国際免許に開放されるべきです。

お嬢様競馬の終焉 : Nereide Design Blog

僕は日本の競馬を根本的に変えなくても、経験を積んだ人達なら対応させることは出来るのではないか? という考えをさせて頂きましたがどうでしょうか? 最も大井の2600m(-追記とか2800m)の東京大賞典パーソロン系の競走馬が勝ったら、次の年は凱旋門賞に向けてローテーションを組んで欲しいという考えも多少はあるのですが……。だから世界水準に全てをあわせろとは言わないけど、不足する部分を補える環境は用意するべきというハード面の問題も同意するのですが、僕は人の経験が絶対的に足りないというソフトの問題を一番問題にしたいです。

i. スタッフワークの問題
ローテーションの問題(斤量や洋芝の経験を馬に積ませなかったことも含む)
騎手の国際経験不足
ii. ディープインパクト自身の問題
ロンシャン競馬場の馬場適正
極端な追い込み脚質
iii. 日本の競馬界を巡る問題
日本独特の馬場、展開の競馬と世界の競馬の違い
騎手の経験不足を生んだ国際交流の少なさ
騎手や調教師批判が出来る競馬ジャーナリズムの不在
(ファンやマスコミの浮かれすぎな状況)

だから僕は須田さんが一番に指摘している“ii”の問題というのは、“i”の問題で改善出来るのではないか? という考えがどうしても捨てきれないのです。そして“i”の問題を解決する為には“iii”の問題を解決する必要が鳴るのかというのが、いま僕がまとまらない文章を書きながら、さらに考えがバラバラになっている所なんです。

凱旋門賞が終わって : 須田鷹雄の日常・非日常

いくら書いても終わる話ではないので乱暴に自分の見解をまとめると、数撃っていればいつかは日本調教馬も凱旋門賞キングジョージを勝てると思う。またその偉業を成し遂げる馬は、実力面ではディープインパクトよりも明らかに弱い馬だったりする可能性も高いと思う。
ただ、徒に数を撃つというわけにもいかないので、確率を高めるためにどういう馬がアークにはフィットするのかとか、逆にフィットしそうならどのくらいまで能力の絶対値は目をつぶってもいいのかとか、そういうことを皆で見積もっていかねばならないのではないだろうか。
凱旋門賞が終わって : 須田鷹雄の日常・非日常

僕は最初この辺と同じ考え方でこの項を書き始めていたし、この考えは変わっていない筈なんですが、でも書いてるうちに自分の考えの「馬の力の差はもう全くない、あとは僅かにある人の差を埋めるだけ」という考え方は、やはり「日本競馬の敗退」ではないか? そしてこれが僅かな差ながら容易に埋まらない問題なのではないか? という所にいま落ち込んでいってます。
「数撃っていればいつかは日本調教馬も凱旋門賞キングジョージを勝てると思う。」という事に関しては、今年のハーツクライコスモバルクディープインパクトのキャンペーンが証明したと思っています。だから今回の敗戦は「ディープの敗戦であっても、日本競馬の敗戦ではない」という結論に結びつけようとしたら、「じゃあディープインパクト(に限らず)の勝利は、ディープにとって勝利であっても、日本競馬の勝利とは限らないとも言えるだろ」という自己ツッコミが入って、いま物凄い思考の迷路に入ってしまったから、普段からまとまらない文章が、更にまとまらなくなってこんな長くなっているのです。
世界と日本の頂点の差はほとんど無い、でも確実にあるということを実感し、「日本の競馬は世界に負けていない」という思いと、でもいま確実にある“僅かな差”というのが、どれほど決定的なことなのか、そしてそれを埋めるのは物凄い困難なのではないか? 人の完全な国際化なんて大きな所に結局行き着いてしまう。おそらく日本の競馬界はいま数を打てば、ディープインパクトほどの馬でなくてもいつか凱旋門賞キングジョージもドバイも勝てるかも知れない、でも同時にこういう消化不良の敗戦を沢山積み重ねていくことというのは、真に日本競馬の一つの到達の形なのか? 難しいところに踏み込んでしまったなあと、我ながら思う。
ただ決してディープインパクトが、今回たまたま走らない日だったということでは決してないし、ディープインパクトの実力が足りなかったわけでも決してない、じゃあ改善するべき点、これからの日本競馬の強化ポイントはやはり騎手と厩舎であり、一番決定的に足りていないものは国際経験だというのが、とりあえず全部はまとまっていないけど、いま言える僕の考えです。ただ最初は「一つのレースの敗因と日本競馬全体の問題は切り離して……」という論だったはずなのに、やっぱりこのレベルの馬の話は切り離せなかったなあ。