クイック・ジャパン 明石家さんまロングインタビュー

クイック・ジャパン 明石家さんまロングインタビュー

クイック・ジャパン(Vol.63)

クイック・ジャパン(Vol.63)

クイックジャパン』なんて一生手に取ることのない人生を送りたかったんですが、さすがにこれは買ってしまうと思う、というか今日本屋に行ってあったら買う。
ここでさんまさんの言ってるラジオ論は全て正しいと思うんですが、現実に即していない正論になってしまっているのも確かで、若い芸人がラジオをしないのではなく、ラジオ局が若い芸人を起用しないことが要因で、大阪ではいまだにさんまさんがヤンタンを始める前にヤンタンをやっていた世代が関西のラジオ界では起用され続けていて、若い人向けの番組は本当に少なくなったし、その僅かな若い人向けの番組も全てスポンサー絡みのアイドルや声優ばかりになってる。
またラジオで培われるような、どちらかというと持久力系のフリートークの才能を芸人が活かせるテレビの環境がない、いまテレビの現場で若手に求められているフリートーク力は、ロンブーの敦、ココリコの遠藤、アンタッチャブルの山崎、品庄の品川のような瞬発力系が重宝される傾向にあり、腰を据えたフリートークをしたり、司会進行しながら全体に気を使いながら場を回していくというような仕事は、上が支えすぎていて下には下克上のチャンスすら回ってこないし、元アナウンサーやアイドルなど参入する人が多すぎる。芸人にそういう仕事が回ってくるのは、この表で言うと東野さんぐらいまでがそういう仕事が回ってくる下限になっている。
そういう状況だから、吉本もいまNSCでは相当型にはまった授業カリキュラムで司会者に都合の良い芸人を大量生産することにベクトルが移っているようで、そういう状況にあって芸人をラジオで鍛えたところで、フリートーク力が活用される仕事がない。だから晩年のヤンタンで活躍していた笑福亭笑瓶ぜんじろうよゐこといった人たちが、そういう力を活かすことが出来ないでいる一方で、スカパー!で有野さんはゲームやプラモの番組、濱口さんはディズニーチャンネルなどで、適正を発揮しているが逆に言うとそういうメディアでしか力を発揮することが出来ないでいる。
僕はテリー伊藤以降の傾向として、地上波のテレビバラエティで芸人さんに求められているのが、大喜利的なものに偏りすぎて、何か一つのシチュエーションに対して即座の反応を求めて、どんどん流していく一方で、さんまさんなんかは一見瞬発力系に見えて一つのテーマに対して物凄く時間をかけるし、一つ一つのテーマにおいて全ての引き出しを開けようとするから、腰を据えたフリートーク力というのが凄く求められる。村上ショージさんの「明石家電視台」におけるクイズコーナーでのやり取りなどまさに典型ですが、あれは最近の一般的なバラエティ番組なら、村上さんが最初のボケを言い終わったら、そのお題はおしまいですよ、たださんまさんの場合は何度も繰り返す、面白いことが出てくるということが分かっているからというのもあるけど、そこから広げるのがフリートーク力のある芸人の仕事だと思っている。だからさんまさんはナイナイ矢部さんなんかのさっさと手じまいにするようなツッコミの仕方を怒るし、村上ショージはさんまさんがいない場所だといきない。
それを最近痛切に感じたのは、レイザーラモンがコンビで出演したときの「さんまのまんま」で、正直レイザーラモンの出渕さんをあそこまで引き出したテレビ番組というのは、いまだかって無かったのではないでしょうか? と思うぐらいに、さんまさんは一つのポイントを見つけてそこばかりに腰を据えてトークを展開していた、あんな丁寧な展開の仕方というのは、もういまの他のバラエティ番組では願えないものだと思います。
だから僕は『たけしのお笑いウルトラクイズ』って当時から嫌いだし、それ以降のテレビバラエティをつまらなくした戦犯だと思ってるんですが、これは別の話にします。
ショージさんや出渕さんが活きたり、あと例えば文化人の人とかでお笑い芸人的な面白さはないけど、面白い人というのをタモリさんやさんまさん、鶴瓶さんのように、梅干しの種を割って中身まで食べてくれる人が司会進行でないとそういう人の面白さは出ない。
だから持久力系の才能を持ったお笑い芸人は、もはや現在の地上波のテレビバラエティでは通用しなくなっている。少なくとも現在の主流からは外れています。
さんまさんのやり方というのは実は相当にいまの主流からは外れているんですが、明石家さんまという支流が主流と比べた時にどっちが主流か分かんないぐらい、太い流れになっているから分かりにくいですが、実は相当にいまのバラエティの本流とはさんまさんは外れたやり方を取っている、似たようなやり方を他にしているのはいずれも純粋に芸人ではないけどタモリさんと所さんぐらい、あと少し違うけど鶴瓶さんと、意外かも知れないけどとんねるず
これは130Rの板尾さんとバッファロー吾郎さんが話をしていた、昔と最近の大喜利の違いという話にも繋がるんですが、ダウンタウン以降から最近のバッファローさんがやってる「ダイナマイト関西」や「バトルオワライヤル」なんかがやっている大喜利は、その一つ一つのボケで勝負だけど、本来の大喜利、昔の大喜利というのは全体の流れで一つの笑いを作っていたという話をしていたのですが、これは現在の主流のテレビバラエティとさんまさんのやってるバラエティの違いにも当てはまるように思います。
いまのテレビバラエティは、「お笑いウルトラクイズ」とダウンタウンの起こした革命以降、瞬間瞬間に一番面白いことを言い合うことを競う競技になったけど、それ以前のバラエティや、今でもさんまさんがやってるのは、もっと全体の流れの中で総合的に作っていくもので、マンガに例えると四コママンガとストーリーギャグマンガの違いがあるのではないかなと考えます。
とんねるずが一時期において完全につまらないもの、古いものの代名詞になっていたのは、90年代中頃にダウンタウンテリー伊藤によるテレビバラエティ革命において、それまでの価値観を古いものにしたときに、それまでのバラエティ界の最前線にいた人たちが否定されるわけで、その時にたまたま一番前にいたのがとんねるずだったからあれだけバッシングされたんだと思います。
でもその時に完全にお笑い芸人的な立ち位置を手じまいしてしまったから、とんねるずって今も生き残ったというか、同じだけのポジションをキープできているわけで、あの辺の世間の流れを見る力というのは、石橋さんの才覚なのか、秋元康の才覚なのかは分かりませんが、素晴らしいです。
一方、タモリさんと所さんはお笑い芸人じゃないから、時代遅れにされても別になんら傷付くものはないから影響はないし、さんまさんも90年代後半というのは純粋司会の番組を増やしたり、若手芸人との交流を増やしたり、浅田美代子中村玉緒の発掘など明石家さんまという支流を作る動きを今から思えばしていたんだなと興味深いですが、やはりこの時期に例えば、桂三枝山田邦子志村けんといった人たちが、東京のテレビバラエティの最前線から完全に消えてしまった。もう既に最前線にはいなかったけど、萩本欽一愛川欽也、そして多くのひょうきんメンバーもほとんどこの頃あたりからテレビで見かけることがなくなりました。
またウッチャンナンチャンがいま急速に評価を落とし、立場を失っているのは、ウッチャンが時代に逆行して果敢にも旧時代のバラエティを「笑う犬の生活」で真正面から取り組んで一敗地に敗れたこと、そして本来おそらくウッチャンの資質にないであろう「内村プロデュース」みたいな今のバラエティに挑戦し、ここでも敗れたことというのが直接的に物凄いダメージとなっていると思います。現在のウッチャンの敗れ去ろうとしている姿は、往事の欽ちゃんが辿った道にも似ているんですが、より挑戦的であり、冒険の結果の敗戦だから、格好良いのは確かで、このタイミングで信者的なファンが増えるのはよく分かるんですが、ただ長生きは出来ないやり方ですし、以前に「ウンナンダウンタウンには自己プロデュース能力がない」と書かせて貰ったのは、ウンナンに関してはこういう所なんですよね。
とりあえず話を強引に戻しますが、最近のバラエティはストーリーではなく瞬間芸の連続だから、さんまさんがラジオで育まれるというようなものが活かされることは少ない、ただいま量産されているその手の番組が全て面白いかというと、なかなか難しくなっていると思うので、揺り返しはあると思うんですが、そっちの番組というのは演者にもスタッフにも相当力がいるし、手間もお金もかかるので無理かなという気持ちも同時にします。
しかしダウンタウンが「リンカーン」という番組を始めたり、「お笑いウルトラクイズ」のDVD-BOXが発売されたり、これまでの時代がそろそろ総括されそうになっていることや、とんねるずに対する再評価、明石家さんまに対する再々評価が若い世代から起きている状況は変化の兆しと見てもいいかなと、やや楽観的な観測ですが思ったりもしています。
2006年3月10日追記)この辺は「テリー伊藤ダウンタウン以降、テレビバラエティはこれまでの団体競技から個人競技に変貌した」という言い方をしたらスマートだったかなと後日思いました。

「今の若い奴はネタは面白いがフリートークが面白くない。」

これは昨今の「ネタ見せブーム」の影響もさることながら、テレビよりも劇場でしっかりネタをやってる方が本物だというような論調が幅を利かせていることもあると思うんですが、もうこれははっきり言えることですが、それを言っているお師匠さんは、実はテレビタレントとしての勝負に負けていま舞台芸人やっている人がほとんどだったりするんですよね、そしてもっと言うとそれを言ってる人でも、いま現在の収入は劇場よりもテレビの方が多いし、おそらく収入の多くを占めるであろう余興だって、テレビに出ている人だからお声がかかるというのがほとんどでしょう。
最初に断っておきますが、例えば鳥肌実とかラーメンズみたいなサブカル系のお笑い芸人さんについては、ちょっと最初から除外して話を進めます(ただラーメンズに関しては、あんなにCM出ているんだから、収入の多くがテレビというのは間違いないと思いますけどね)。
実際問題として考えたときに、劇場とか寄席だけで食っていくというのが不可能だというのは、お笑いの劇場の席数と入場料で計算すれば簡単に分かるんですよね、おそらく日本のお笑いの劇場で入場料だけで出演者を養うことが出来る劇場は大阪のなんばグランド花月だけでしょうが、そのNGKだってテレビの人気者が多数出演しているから、地方から多くの観光客が観光バスで乗り入れてくるし、企業や組合が福利厚生にも取り入れている。
東京は寄席が多いと言ったって、お客さんがどのくらい入っているかは行っている人の方がよく知っているでしょうから言いませんし、古典芸能にあたる落語や諸芸の人は国や自治体の文化事業みたいなことで仕事が入るけど、そうじゃない人はテレビに出ないと、お笑い芸人だけでは生活なんて普通出来ない。
例えば漫才ブームの頃に「花王名人劇場」や「お笑いスター誕生」に出ていた人たちで、いまも芸人続けているけど、テレビでほとんど見かけなくなった人は、大抵所属プロダクションの役員になっていたり、芸能学校の講師をやっていたり、副収入源がある人がほとんどだし、これは若手の人にも言えますが、テレビに出ないで続けている人のほとんどがお店を経営していたり、八百屋さんだったりしているわけです。NHKの社員やりながらは認められませんでしたが。
だから『プチクリ』でやっていくと考えている訳でもないのに、「テレビは良いから、劇場で売れたい」みたいなこと言う若手芸人さんは多いけど、テレビに出ないとお笑い芸人は食えないという現実はもう少し強く受け止めるべきだと思う、この辺はうまく事務所や先輩芸人にごまかされているということは、強く認識してほしいです。
しかも2丁目劇場天素あたりがいなくなったあたり以降、2丁目劇場はもちろん、現在のbaseよしもとに至るまで、一つの方向性が示されたら、その方向以外の芸人さんが活躍できる場所ではなくなっている、だから自分の事務所の若手向け劇場という、本来ホームの場所がアウェーになって苦労している人も沢山いる、そういう人は例えば、ナインティナイン次長課長、レギュラーがそうであったように、テレビに舞台を求めていくべきなのに、そういう空気が許されない、まず劇場で売れてからテレビやラジオに行くべきという考えは本当に正しいのでしょうか?
だからさんまさんのこういう台詞は、いまのお笑いファンもどちらかというと、劇場優先のネタ指向になってきてるから、さんまさんや紳助さん、あと最近の石橋さんのコメントなどに見られる「芸人よりもテレビタレントを育てたい」という姿勢は、他の師匠連と比べても異なるスタンスなので違和感はあると思うんですが、やっぱりこの人たちは「日本のお笑いの流れは劇場ではなくテレビが作ってきた」という自負があると思うし、「テレビに出ないと食えない」という現実も頭にあるということを、ファンの側は受け止めてあげてもいいのではと思います。

「どうしても話さなければいけない状況で話すことが重要。」

いまも芸人さんがラジオをやっているけど、いま芸人さんがやっているラジオは30分や1時間の番組ばかりで、しかも気心が知れた芸人だけでやっているような番組がほとんどだから、さんまさんが言っているような状況にはならない。また一時間ぐらいの放送でも、大喜利的なコーナーやゲーム対決みたいなコーナーも多いから、さんまさんが思うようなフリートーク力は付かない、自分の持っている面白いことをするだけで、充分にこなせてしまう。
芸人さんやバラエティ慣れしているアイドルだけでなく、ミュージシャンやアナウンサー、声優さんなんか、こんなラジオ番組でないと共演する機会がない人とやって、自分の引き出しの中以外から出してくることや、長い時間を展開させること、瞬間的に笑いを取る以外にもトークで楽しませるという機会がほしい。
実際にそういう番組でも、吉本が作ったYES-FMの番組とか、あと「ゴーゴーモンキーズ」を経験した千鳥なんかは、物凄いフリートークが上達しているので、もっと腰を据えたトークが出来るラジオ番組というのを、出来ればもっと若い内に経験させてあげてほしい。桂三枝谷村新司原田伸郎が「若い人の感性にはついていけない」といってヤンタンを辞めたのは、みんな揃って34歳でしたが、いま深夜ラジオをやってる世代はほとんどが30代に入ったぐらいの人たちが多い、もっと若いうちに経験させるべきことはあるんじゃないでしょうか。
2006年3月10日追記)さんまや紳助、とんねるずは日本のお笑い界は花月や浅草ではなく、自分たちが河田町でやってきたことが現在の日本のお笑い界の本道であるという自負がきっとあるはず。

87年頃からヤンタンの聴取層の25歳以下をFMに取られ出した。

大阪ではFM802のブームがあって、関西のAM、FMは揃って若者向け放送が壊滅状態になり、FM各局は802の後追いを始めてさらに悪い状況になり、ようやくFM-Osakaがトークが出来るミュージシャンをパーソナリティに集め出して802に対抗できるようになった一方で、AMは若いファンを諦めるか、スポンサー主導のアイドル番組か声優番組ばかりになった。テレビもラジオも関西の放送局は完全に若手芸人を育てることを放棄したとしか言えない状況、そりゃ実力があって才覚がある人はみんな東京に行ってしまう。
なんかさんまさんとラジオの話のつもりだったのに、とんねるずの話とか劇場とテレビの話なんかもやろうと思っていたことにまで話が広がりました。こんなつもりじゃなかったのになあ(笑)。
(タスカプレミアム)

明石家さんまの番組について