内海が理想の上司になる社会の危うさ

後藤隊長はLeader, 内海課長は Manager - okky の日記

本論については、この元記事と、それに続く記事が優れているので、それに付け加えることはなにもないので、是非とも読んで貰いたい。『パトレイバー』をマネージメント論として読むぐらいに、当時の読者が歳食ったということは言えますね(笑)。作品の話と作品の背景の話をしたい。
まず後藤隊長に関しては、ここで解説されている優れた部下に信頼されているリーダー像、昼行灯を演じることでの世渡りといった描写は、アニメの方でも優れた描写がされていて、特に劇場版の二作については、後藤隊長というリーダーを描いた作品と言えるぐらいの描写がされている。
しかし内海と企画七課については、ゆうきまさみの漫画版のみの描写での、圧倒的な存在感が凄いのです。そしてその上で内海にあの末路を用意したことは、かなり高く評価されて良いと思います。『BSマンガ夜話』のパトレイバーの回において、内海は80年代バブルの時代の象徴的な存在として描かれている、「おもしろ主義」のような存在であり、彼が最後に殺害されるという退場の仕方は、それまでのこの手のマンガには無かったことで、まあこの番組では出演者の一人が、はっきりと「内海課長秋元康」と断言していたけど、その辺のメディアや代理店的な胡散臭さが正義であり、面白さである存在でした。しかしバブルが弾けて後の時代において、内海というキャラを一つ前の時代の象徴として、断罪することはまさに時代の総括であったといえます。
パトレイバーの連載終了は1994年で、その翌年に地下鉄サリン事件が起きて、オウム真理教の全容というのが明らかになりました。この作品を「オウムを先読みしていた」と評している人がいますが、これは作者のゆうきまさみ自身もそうだし、内海と企画七課的なものを持ち上げてしまうヤバさと、それを作品で断罪したゆうきまさみへの評価を、マンガ夜話で語っていた大月隆寛岡田斗司夫は、ほぼオウムの年長の幹部達と同世代であり、オウムはオタクの犯罪というのとは違うけど、オタク的な人達がある種の理想とするコミュニティの姿であり、それのなれの果てであることは間違いなく。こういう連中はやがてこんな風に暴走してしまうことは、世代的感覚としてあったのは間違いないでしょう。
しかし僕はどうして報いを受けたのが内海だけなのか? という所にいまだに引っかかりを覚えています。シャフト本丸は手が届かないというのは、現実的リアルということで良いにしても、例えば黒崎はオウムで言えば早川や岡崎であって、内海という存在を利用して、自分がもっとのし上がることを考えて、内海以上に直接的に無関係のカップルを眉も動かさずに始末することを部下に命じるなどしている。
黒崎のように直接的な汚れ仕事に関わっていなくても、企画七課の連中というのは、内海や黒崎が違法行為や倫理的に問題があるという次元を越えたことをしている。という事実を直接的に見聞きしていない人間でも、当然薄々ではあるが分かっている訳で、自分たちの技術を試せるとか、面白そうだというだけの理由で、そういう連中の悪事に荷担していることは、日本国内に居場所がいなくなる程度の断罪しか、少なくとも作品中には描写されていないことには、納得できない部分がありました。
黒崎はもちろん、企画七課の技術者とか、バドの面倒を企画七課で見ていた女性とか、そういった連中まで、犯罪者として断罪しきれなかったというのは、僕はゆうきまさみの限界というよりは、あの時代の限界だったんだろうと思っている。あの時代は内海という存在を断じるところだけでも、相当に画期的であり意味のあることだった。だからいま連載している版の『鉄腕バーディ』には内海はいないけど、黒崎や企画七課のような連中は沢山いるわけです。しかも内海のような魅力的なリーダーの存在ではなく、もっと直接的に宗教を隠れ蓑にしているリーダーや、そのまんま権力と繋がっているような連中の下についてる連中として描かれている。それをゆうきまさみがどう決着付けるのかは、結構気にして読んでいる訳です。

はてなブックマーク - 後藤隊長はLeader, 内海課長は Manager - okky の日記

いやあ最初はこんなことを、この記事を元に書くつもりは全く無かったんだけど、ブクマコメント読んでる内に、かなり背中に寒いものを感じてしまって、こんな内容になってしまいました。
まさかここまで後藤隊長と並んで、内海も理想の上司というコメントが並んだり、企画七課が理想的な職場と表現されるとは思わなかった、実はかなりヤバイことだと思うのです。最後にゆうきまさみ内海課長を断罪されるべきものとして葬った。それが90年代にゆうきまさみがバブルの時代を総括する為にやったことなんだけど、そのメッセージが時代を経て薄まってしまったことの大きさというか危うさを感じるし、内海と企画七課のようなものに畏敬が集まるほど、現実の大人の社会とか組織に対する絶望があるというのは、80年代の面白主義バブルの時代の象徴として、ああいうものが持て囃された以上のヤバさを感じるのです。いまは内海的な存在が人を動かすときにやったようなことをするには、圧倒的に金がないから、そこに正義とか意義とかが取って代わるようになって、胡散臭さや悪事がエスカレートする段階、そしてその事について中の人間の迷いのなさが、飛躍的に高まっている気がしています。80年代に持て囃された小悪党というか、景気の良さでつい目を瞑られていたことで、90年代に入ってしっかりと断罪されたことが、最近また復活している危うさを感じるんだよな、しかも現在は不景気なのに、それが復活する為に金以外のなにが原動力になるのか、ということに僕は強い危機感を感じています。
最もそこを現在の『鉄腕バーディ』では描こうとしているかなという期待をして、僕はバーディを読み続けております。

4091932711機動警察パトレイバー (1) (小学館文庫)
ゆうきまさみ
小学館 2000-01

by G-Tools
4091530710鉄腕バーディー 1 (ヤングサンデーコミックス)
ゆうきまさみ
小学館 2003-06-05

by G-Tools
B002KLKXTAEMOTION the Best 機動警察パトレイバー 劇場版 [DVD]
バンダイビジュアル 2009-10-27

by G-Tools
4873765404マンガ夜話 (Vol.8) (キネ旬ムック)
キネマ旬報社 2000-06

by G-Tools