「お笑いを語るのは、お笑いを見るよりも楽しい」

このタイトルはいしかわじゅんのマンガ評論本のキャッチコピーのパロディです。まあでも変に作品や作家を神聖化して、個人の楽しみ方を縛るのは、本当にもったいない事であります。そう思うぐらいにM-1グランプリが近付くにつれて、先日の「てれびのスキマ」さんの秀逸な論評もありましたが、他にも面白いものが次々と出ています。

徹底討論! タブー破りの『お笑い原論』(前編) : 日刊サイゾー - タスカプレミアム

この記事は、僕は雑誌の方で全部読んでいたんですが、ここに掲載されている前編については、微妙に外しているかな? という風に思っていましたが、まあ「東京ポッド許可局」の面子では仕方ないんでしょうが、話が関西系の流れになると、少し分かっていないあと感じることが多いです。ただこの記事は後編が面白い、というか後編は凄いこと書いてある。

徹底討論! タブー破りの『お笑い原論』(後編): 日刊サイゾー

この記事は前後のたけしさんやタモリさんに対する分析も一級品なんですが、僕が誌面で揺さぶられたのはこの辺です。

こないだ、ゆーとぴあが解散したでしょ。そこでホープさんが、もう60歳近いのに、「新コンビを組んで頑張っていきたいと思います!」と言ってて、やっぱりあの時代の芸人ってすごいなと思っちゃうよね(笑)。もう、"業"としか言いようがない。

月亭可朝とかもすごいじゃん。こないだ捕まっちゃったけど、記者会見で一節歌うだけ歌って、一言も謝らない(笑)。最近、"空気を読む"ということがひな壇芸人として売れるための武器になってるけど、昭和の芸人って空気なんか読まないんだよ。だけど、それを押し切っちゃうんだよね。

このあたりのかしまの意見は、核心をズバズバと付いている。最近になって松竹芸人の松竹の師匠エピソードが急に売れ始めましたけど、あれが面白いのは、明らかに今のテレビ芸人や、吉本芸人の常識で松竹の師匠達が動いていないからで、「テレビ的においしい」とか「師匠クラスの芸人らしく振る舞おう」とか、そういうのが全く無いのが素晴らしいんですよね、だからWコウジにしても、雨上がり決死隊にしても、陣内にしても、吉本芸人の常識から考えて予測不能の回答が来るから、あんなに笑ってしまう。

テレビの中に存在しているという違和感がものすごいんだよ。でも今、他の分野からちっちゃいスケールでそういう人が出てきてるよね。女医の西川史子とか、オカマタレントとか。

昔はテレビの世界において、例えば芸能人モノマネ歌合戦みたいな番組にポップコーンやゆーとぴあが出たり、お笑い芸人というのが、歌手や俳優の中でアクセントとなる異物だったけど、いまお笑い芸人を中心にする番組が増えて、出演者のほとんどがお笑い芸人という番組になったときに、西川史子とかIKKOとか、ウエンツやジャニーズの人達が、そういう異物として機能しだしている。
でも本当なら芸人の中からそういう異物を出さないと行けないんだけど、いまのお笑い界のシステムでは難しくなっていて、現在テレビでそれが出来ているのって、太田光江頭2:50ぐらいしかいない、最初出てきたときは再ブレイク後の有吉とか、はるな愛とかそうだったけど、「アメトーーク」とか「ロンハー」があっという間に、彼らの異物感を消費し尽くして除去してしまった。にしおかすみことかもそうですよね、ネタやりきれなくて泣いちゃうとかは、凄い叩かれていたけど、あの異物感は貴重だったけれど、あっという間にお約束の「泣き芸」になってしまった。
そういう意味でやはり「師匠版レッドカーペット」は、やっぱりやるべきだと思いますね、おぼん・こぼん、ポップコーン、新生ゆーとぴあ、レツゴー三匹チャンバラトリオ、Wヤング、サウンドコピーといった人達が、全く空気を読まないで、再ブレイクの野心剥き出しで出てきてくれたら面白いぞ(笑)。

〃ろくでもない夜〃キングコング西野君と、関西弁のテレビ|松野大介論

そして今日紹介する中で一番の白眉はこれですわ、やっぱり松野大介のお笑い論は違う、見ている位置の高さが違いすぎるし、分析もお見事過ぎます。まずキンコン西野論は完璧、これに文字を付け加える必要はないです。今後キンコン西野を語る人は、全てまずこのブログエントリーからの引用を枕に持ってくるべきです。
ただ今回メインで紹介したいのは、そっちではなくて、後半の関西芸人論の方です。

そんな今田君でも関西の芸人とフリートーク的に絡むと、関西ローカルのバラエティーのノリに見られるある種の馴れ合い状態に入る気がする。

仲間内で、楽屋話的なトークから、「なんでやねん」とか「んなアホな」で区切れば成立してしまう感覚に拒否反応があるね。

関西弁で話す人たちばかりになった時の親密感と馴れ合いが嫌いだ。おもしろくなくてもおもしろい側に押し流す力があるから。

この辺の分析は本当に凄い、もう東京に住んで関西芸人ばかり出ている番組を、時々見ているだけでここまで見破るのは、やっぱり松野大介は見る目が半端じゃないです。結局いま大阪の芸人がやってることは、単独では空気が作れない連中が、集団で面白い雰囲気を見せている、その為に楽屋とか飲み会とかから、そういう集団を作って日頃から空気を形成している。だから異物が紛れ込んでくると、あっさり負けてしまうし対応できない、だから「空気を読めない奴はダメ」というレッテルを貼るという方式で、そういうのは潰していく。「挨拶が出来ないのはダメだ」とかも、いまの師匠クラスの芸人さんの説教では、それは社会人としての社交性といったことの注意だったけど、いまの中堅以下の芸人の注意は、集団芸の輪に入れていないことの注意でもある。現実に大阪はいま劇場や番組、小さなインディーズライブまで、そういう図式で番組やライブが全て進行していて、集団芸のシステム量産化とも言えるけど、はっきりと馴れ合いで全てが進んでいるとも言える。おそらくこの馴れ合いに参加しないから、吉本ファンに松竹芸人は嫌われていたし、それが全てじゃないとは思うけれど、吉本のファンにナイナイやキンコンが叩かれていたのは、吉本芸人の馴れ合いに参加していないからだと思う。

例えばさんまさんの番組なら、全国ネットの場合は関西弁ばかりにならないようにキャスティングしているからだろう。

さすが、さんまさんは、関西の番組でも馴れ合いそうに盛り上がると、やんわりとした「なんなのそれ〜」とどこか東京弁的な口調で冷たいツッコミを入れて、関西弁的空気を除去する。

この辺のさんまさんのバランス感覚というのは、ヤンタンでよくキャスティングの思惑とかを解説してくれたことがありましたが、タモリさんの鶴瓶さんの話の腰をわざと折るというエピソードに、通じるような馴れ合わないためのバランス感覚というのが絶妙ですよね、間寛平の後釜に吉本の若手ではなく、若槻千夏の復帰に拘っているところとかも、さんまさんらしいバランスを崩すためのバランス感覚が素晴らしい。

西野君は、さんま的な孤独を手に入れたら、大物になるんじゃなかろうかね。

明石家さんまが孤独というポジションに、自分を起きたがるという話は、オール阪神さんもなんかの番組で言ってましたね、ただいまの吉本バラエティというシステムがあって、そこの歯車になれるような定番芸で礼儀正しい子を順番にセレクションしていくシステムでは、さんまさんとか西野みたいな大物感のある人はもう出てこないでしょう。本当なら松竹とか、インディーズライブとかやっている人達が、吉本的なシステムでは取り逃している人達を、拾っていかないといけないのに、いまは松竹もそういう小さなライブも、プチ吉本のシステムを採用するようになっている。
ただ「楽屋の輪に入れない奴は排除する」のが、いまの大阪のお笑い界ならば、東京のテレビの人って、「そういうのに入れない奴の方が面白い」という風に思っている人が多そうというのも、また事実なんですよね(笑)、明らかにテリー伊藤とか高田文夫とかって、「挨拶とまともに出来ない社会不適合者の方が、面白い新しい発想持ってるに違いない」とか思っていそうでしょ?(笑) そりゃそんな奴は、いまの大阪のお笑い界のシステムでは出てこられないですよね、さっきの話に出たような異物は、もう大阪からは現行システムで続けている限り出てこれない。

今年のM-1グランプリを争う二つのフォーマット - 死んだ目でダブルピース

この二つの新たなフォーマットに対して、対抗する王道漫才として、やはりここはNON STYLEキングコングの話はしておかないといけない。というかやはりこのダイアンとナイツの戦いであると同時に、NON STYLEキングコングの戦いもあり、さらにナイツ・ダイアンとNON STYLEキングコングの戦いもある。他の四組も面白いんだけど、革新漫才と王道漫才という見方をすれば、やはり優勝はこの四組に絞られる。

NON STYLEの漫才を楽しむたった1つの方法 - おわライター疾走

実際には「しゃべりのスピードについていけない」「速すぎて何を言っているのかわからない」と感じているのではないでしょうか。

スピード感のある漫才がどちらかというと女性や子供にウケやすい理由は、女性や子供の方が、成人男性に比べて「笑いを理解しなくてはいけない」という戒律に縛られていないからでしょう。

キンコンとノンスタの漫才に対する評価については、広義ではこの二点を抑えておけばいいと思う、さすがプロのライターさんで、汎用性のある分かりやすい解説をしてくれています。僕はM-1の三回戦で、キングコングの漫才には10点満点で6.5点を付けました。でもこの日に楽しかった漫才という意味で考えれば、やっぱりベスト3に入るんですよね、もう髭男爵山田ルイ53世のボケではないですが、こういう漫才は雰囲気に身を任せて「何となく笑ろとけ」みたいな楽しみ方も、漫才の正しい楽しみ方だし、そういう漫才を過去のM-1でもきちんと評価されている。

社会人が仕事もそっちのけでTVにRADIO:分類考察の続き / 雑感(キミハブレイク / レッドカーペット)

シュマーク層:所謂自称お笑い通な層。
(略)
僕の中では今年のM-1
決勝進出者メンバー見てなんでキングコングがいるの?
って思う人は例外なく皆この層の人だと勝手に思ってます。
社会人が仕事もそっちのけでTVにRADIO:好き勝手に分類してみた

あの「BSマンガ夜話」の中断前とかによく話が出ていたのに、漫画界のビラミットの頂点にいて、表現の革新を常に行って、先鋭的作家であろうとする人達と、ピラミッドの底辺を支えて裾野を広げようとする作家がいて、漫画評論とか目の肥えたと言われるような漫画読みの層には、先鋭的な作家ばかり評価されているけど、底辺を支えて裾野を広げている作家も、同じように評価しないといけないという話が出ていましたが、まさに漫才界も同じですよね。
アフタヌーン」や「IKKI」に載っている漫画ばかりが、レベルの高い漫画じゃなくて、「コロコロ」や「ジャンプ」「漫画ゴラク」に載っている漫画も価値があって、「アフタヌーン」に載っている漫画のような漫才も、「ジャンプ」に載っている漫画のような漫才も、同列で評価しようと言うのが、M-1グランプリの面白いところなのです。
ちょっとネットのお笑いファンの、アンチ・キングコングみたいな声が強くなりすぎてるよなあ、バイアスかかりすぎてるんじゃないか? という風にどうしても思ってしまいます。おそらく今年も6位以下にはならないと思いますよ。普通に最終決戦入りをギリギリの所で争ってくるでしょう。東京の準決勝で、はりけ〜んずの新井さんも言ってたらしいけど、漫才してるときの梶原って、可愛いんだよね(笑)、あれは凄い武器だと思うし、西野がそういう梶原の面を、本当に強く引き出せるようになってきてる。

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