畑健二郎先生は師匠を超えたね

何が基準なのかとか、どの項目でとか、もう既に単行本の売り上げは超えてるとか、色々と自己ツッコミだけでも沢山できるタイトルにしてみました(笑)。

「ハヤテのごとく!」ヒナ祭りの最後に : ぷらずまだっしゅ!

何度もそんな趣旨で書いてるけど、僕はこのマンガは「現代の美少女ゲームやアニメ、萌えマンガをパロディにした、ラブコメ要素の強いストーリーギャグ漫画」というのが発射点だと思っています。最初はそうだったということに関しては僕は今でも考えは変わっていないんですが、なんかここに来てこの物語も遙々来たなあという所に到達したと思います。この作品まあ売り上げ的には中ヒットを越えて大ヒットになりかけてるけど、作品としての評価もっともっと高くて良いと思いますよ、現時点ではまだこの作品の評価は低すぎると思います。
結局いつも僕が言ってる、畑さんが真面目でいい人、作品にも読者にも誠実というのは、今のところは全てが良い方向に転がっていると思います。だってこれだけ女の子が可愛くかけて、少女のモノローグを(男性読者から見て)リアリティを持ってかけるんだったら、あとは男の登場人物の女性に対する向き方を少し変えるだけで、物凄い今の一番売れ線な美少女アニメ化出来る萌えマンガになるし、パロディ・ギャグ漫画として突っ走れば、これだけ風呂敷広げられて、沢山のキャラクター出して人間関係構築出来るんだったら、いわゆる漫画読みに評価される作品とかにも出来るだけのギャグ体力とかストーリー作りも出来るはずなのに、凄い守っているところが多くあるなあというのが、読者を裏切れない所と、自分の作ったキャラクターを壊せないという人の良さを感じるんですよね、いつもこの作品を読ませてもらっていると、最近ここまで自分の作品世界観ず好き、キャラクターを作者が愛しているというのが読んで伝わってくる作品はあんまり無いと思います。それが「架空の杜」の人が言ってるような作品の品位にもそのまま繋がっている。
萌えマンガとかラブコメとしての話は、他にも言ってる人が沢山いるだろうから、おそらくこのマンガは最初は「ギャルゲーとかラブコメのパロディのつもりだったのではないか?」というギャグ漫画視点で考えてみたいんですが、そもそもこの作品は作者にとっては初デビュー連載作品で、世の中に出る為の作品なわけですよね、そしてその時点で畑健次郎が唯一持っていたキーワードは「久米田康司の弟子」というカードだったわけで、やっぱりこれを打ち立てて商業作家としてデビューしていく方向だったと思うんですよ、だからハヤテのごとく!がギャルゲーをテンプレートにしてできている」というのは、確かに違っていてある程度最初の段階で、ギャルゲーと美少女アニメをパロディにしてやろうという気持ちがないと、僕にはこの設定はないと思っているんですよ、でもこの作者は作品とキャラクターに基本的に愛がある人、『かってに改蔵』の最終話は書けない人だと思うから、そういう人にはそういう割り切ったパロディは書き続けられない所か、かなり最初の段階、単行本にして一巻目ぐらいでもう違っているなとは思うんですが、そういう意味ではときメモファンド事件はタイミング良かったかなと思わなくもないんですが(笑)。
だってハヤテが女登場人物たちに対して「好意を見せているように勘違いさせる言動や行動を取りまくっている、でもハヤテ自身は天然無自覚」という形をもっと極端に取っていっても、畑先生の力量ならもうハヤテが嫌なナンパやろうにならずに、天然主人公として嫌われることなくキャラクター造形出来ると思うんですが、それをやらないのはもう畑先生の人格とか常識が極めて、誠実かつ上品だからでしょう。結果的にこの作品はパロディ要素の強いラブコメではなく、パロディでもラブコメでも無くなってしまった。普通何かのパロディとして始まった作品がパロディ色が薄くなったら、パロディにしていたはずのものそのものになってしまうんですが、この作品はそれを越えて別物になっているのが素晴らしい。*1
絶対にもう少し全ての恋愛感情の度合をもう一段階上げれば、いまの美少女マンガ文脈で間違いなく楽に売れる作品として進める事が出来るし、ギャグの方向を特化させるにあたっても、いまのそういうゲームとかアニメのパロディをもっと先鋭的に出来る戸口は多くなるわけだから、でもそっちにいかない抑制が効いてるのが、僕はただただ凄いなあと思います。*2
どちらかというと、僕はもうメインヒロインはヒナギクに変更されているとかされていないという話ではなく、というか元々本当にナギ&マリアがメインヒロインとして設定されていたのか微妙な気もしないでもないんですよね、かといってヒナギクがメインヒロインとして用意されたキャラクターと言うと、それもまた違う話のように思うのですが、つーかこれだけ畑健次郎は転載というような振りをしているけど、「ハヤテがナギを女として意識する」ということをやって、それを御せるかというとかなりしんどいような気もする。
畑先生は多分物語中に登場人物を不幸のまま終わらせること出来ないと思うんですよねえ、もしナギメインヒロインでエンディングやるのなら、最終回の最後二コマ目はヒナギクと歩が「新しい恋を見つけましょうね」とか誓い合うみたいなシーンが入るか、単行本にして1巻前ぐらいから唐突にマリア以外の主要女性キャラの鞘当て相手というのがバタバタと決まっていくのがパターンだと思うのですが、ここまで片思い関係(恋愛関係ではない)の人間関係だけで作られた大風呂敷の世界観なんて物語、前例がないと言って良いですよ、まあだからこの先あっさりと誰か一人がメインヒロインになってそのままというのもあり得るんだけど、次の号からしれっとヒナギクルートになってるとか含めてね。
ここまで片思いと勘違いの人間関係だけで、これだけの登場人物数の相関関係の山を作っているのは、実はとんでもないことですよ、それだけで単行本にして10巻を越える連載に到達しているのは凄いと思いますが、逆に言うと現在考えられるパターンのこういうマンガの終わり方で、畑先生収集付けられるの? というのが心配半分、期待半分だったりします。一番無難だけど綺麗な終わり方で八方丸く収まるのは、日常的なエピソードでストンと落として何の決着も付けないことなんだけど、畑先生の読者に対する誠実度を考えるとそれは無さそうな気がしています。
アニメ化はして欲しくないけど、もしするんなら深夜アニメではなく、コナンやワンピースとかやってるような枠・時間帯で、そういう味付けでやって欲しいです。いまの文脈だとそういう売り方するのが一番ベターなマーケティングだと思うんだけど、この作品はまあ“21世紀の「うる星やつら」”ぐらいの評価はそろそろ得ても良いんじゃないかと思っています。内容全然違うけど、立ち位置的な問題としてね。

正直な話この漫画が、
僕が想い描く唯一のトゥルーエンドにたどり着く可能性は
多く見積もっても二割に満たないと思います。
畑 健二郎 Vol.49/2005年10月5日【第50話/一年間の感謝を込めて】 : まんが家BACKSTAGE

とりあえず読者にこんなメッセージを送れる作家の誠実さ、作品に対する思いというのが分かります。多分畑先生は主人公が意識的に二股かけようとした瞬間にバッドエンディングへまっしぐらのフラグ立てる人だよ(笑)。でもそういうゲームやアニメ自体は嫌いじゃない好きだから、パロディやろうとしても出来ないという器用なんだけど良い人なんですよ(笑)。

ハヤテのごとく! 8 (少年サンデーコミックス)

ハヤテのごとく! 8 (少年サンデーコミックス)

*1:ただパロディです、ギャグですということを言い訳に、これまでいわゆる「恥ずかしいシーン」を照れながら書いてきたおかげで、今回照れずに「恥ずかしいシーン」を堂々とかけるようになったとは言えると思う。

*2:ちなみに前者だったら『サクラ大戦』になって、後者だったら師匠の作品のようになっていたと思います。