『キングオブコント2010』は盛り上がったのか?

今年の『キングオブコント』の感想を見ていると、賛否両論の差が激しかった芸人さんへの感想や、視聴率が思っていたより振るわなかったこと等から、番組後も「世間自分の感覚のズレ」や「コントのコンテスト大会の意義や定義」などが、個々の出場者のネタの感想を越えて、続けている方がいたので、その辺の話をしてみたいと考えています。

Togetter - 「KOC2010の感想つぶやき集」

まず最初に視聴率問題ですが、普段のTBSの持ってる数字とか、裏番組の関係などもあって、この視聴率自体がそんなに低いとは思わないのですが。特別な賞レースイベントとして、そんなに盛り上がってなかったのは確かじゃないですかね。お笑いファンだけでリアルタイムでTwitterとかしていると、どうしても世界の全てがこの大会で盛り上がっているように見えますが。僕も実はそんなに賞レースとして、真剣に見ていたかと言われると、せいぜいラジオ大阪よみうりテレビの賞レースぐらいの感覚で見ていましたからね。
今回に関しては、決勝のメンバーというのも微妙に盛り上がりに欠けるメンバーだった。いや良いメンバーなんですよ、おそらく過去の二大会と比べても、M-1やR-1でも過去にこれより酷いメンバーだった決勝はあった。
でも賞レースというショーでもあるという形で見た時に、今回のメンバーは中途半端に知名度がある人達ばかりでした。例えばバッファロー吾郎バナナマンのように芸人が尊敬して優勝して欲しい芸人、サンドウィッチマン東京03のように、ファンが優勝して欲しいと願っている芸人、2700や天竺鼠のように、お客さんから見て「誰だ? 何をするんだろう?」という興味を示す芸人、というのがいなかったところが、賞レース的な関心というのが減ってしまった。こういう賞レースって、「誰が優勝するか分からないぐらいのハイレベル」よりも、「何組かの優勝候補と全く未知の人達」というほうが、賞レース的な関心を引き立てるように、去年のM-1と今回のKOCを見て感じた次第です。そういう意味のバランスが凄く取れていたのが、2004年と2008年のM-1だった。
視聴率問題についてもう一つ、当日の『とんねるずのみなさんのおかげでした』との比較という面も書いておきたい。直接的に裏番組だった時間帯は一時間とはいえ、同じ日のバラエティ特番、しかもとんねるずのほうも『細かすぎて伝わらないものまね選手権』という人気シリーズであり、同じくネタ見せ番組の側面の強いコーナーというのもあって、比べられることになりました。
吉田正樹さんがTwitterで、とんねるずの芸人に対する(体育会系的ではあるけど)優しさのほうが、視聴者の今求めているものに近い可能性を示唆していましたが、そういう面が多いと思ったのは、今回両方を見比べていた人が、とんねるずの方のコーナーだった『KITANACHELIN(きたなシュラン)』のほうの、タカさんの絡みを面白がっている人が多かったことでも、かなり真理を突いていると思われる。
また漫才と違い、コントの場合はどこを評価するかという点も別れる訳で、今回の決勝メンバーだけで見ても、演技力のしずる、キャラクターのTKO、構成力のキングオブコメディラバーガール、発想力のジャルジャルというような形で、各芸人の自分たちが評価されたいポイントがバラバラで、審査員も評価したい軸がバラバラなので、どうしても真剣勝負色を前面に出せば出すほど、その時の全体の評価の流れが、自分の評価したい流れと違う人ほど、真剣勝負の匂いが違和感となるように思える。
M-1に関しては、賛否両論はあるでしょうが、ここ何回かの番組において、審査員が明確に「技術力」と「構成力」を優先してみていることを明らかにしていることで、その基準に不満はある人はいたとしても、ルールが定義されている格闘技の大会として成立している。一方でKOCは審査員に審査基準を摺り合わせる場所もなく、それらも主催者側から定義されていないのに、「相撲が最強」「空手が最強」「レスリングが最強」と思ってる人達がバラバラで、出場者にも審査員にもいて、明確なルール設定もなく、採点競技をしているんだから、真剣勝負を売りにするのはなかなか難しいし、KOCの「勝利の法則」というのは、このままでは生まれないでしょう。だから予想は大変難しい大会になるけど、予想が難解な展開というのは、普通のスポーツでも、ギャンブルスポーツでも、あまりその大会やそのレースは人気にならない。
基本的に日本人は絶対王者がいて勝つか、それがアップセットで破られるか、明確なライバル対決というのがないと難しくて、そういう意味でKOCの芸歴制限がないとか、これまでのライバル対決というのが、今まで同じお笑いカテゴリであっても、違う土俵で違う競技をしていた人達が、ここで一同に介すというのは、なかなか難しい。どうしてもKOCは司会者のダウンタウンのテレもあって、物語性が作りにくくなってる。やっぱりこういう賞レースは島田紳助のように、必要以上にテレない人ぐらいで丁度良いのだろう。
あと視聴率にも関わる話ですが、R-1といいKOCといい、平日の19時台というのも、若手お笑いコンクールの放送時間としては微妙ですよね、これがまだ漫才というフォーマットの中でなら、まだ外れすぎることもないというのもあるし、年末の時期の日曜日というのもM-1はあるけれど、極端にシュールなことや、既存の常識に喧嘩売るような内容を仕掛ける人も決勝に出てくる中で、成年の人が自宅に帰れていない時間帯、茶の間で家族が見る時間帯で、「芸人が面白いと思う芸人が一番面白いに決まっている」というコンテンツを放送するのは、この時間帯の視聴者層と、番組がターゲットにしている視聴者層にズレがあるようにも感じました。『ヘキサゴン』が求められている時間帯に、やることではないように思われる。
それと今回の放送は、ファーストラウンドの最初の三組が、非常に微妙な受け具合のネタをしていました。この三組のうち二組が準決勝で披露したネタとは違うネタでした。一回目と二回目の採点を検証すると分かるのですが、キングオブコメディの合計得点1,836点は、二回目に1,000点満点を取っても越えられなかったコンビが五組もいました。つまり一本目でどう考えても優勝できるレベルでない。というネタを視聴者に見せてしまって、尚かつそのコンビにもう一度ネタ披露のチャンスがあるというのは、普通の視聴者にはチャンネルを変えるタイミングになってしまっている。
だからネタを二本やるのは、ファーストラウンドの上位三組で良いんじゃないかなと思う、一本目と二本目の採点を合計して最終優勝者を決めるというのは、M-1やR-1に無いKOCの長所として残せばいいでしょう。そうすれば二本目に良いネタを温存して敗退というのも避けられるでしょう。
あとM-1に関しても「漫才とは何なのか?」「これはコントじゃないのか?」というような話が出てきますが、KOCに関しても「これは漫才でもできるじゃないか?」という話が結構あがっているようですが、僕はそういう基準は、自分が好むものにはその基準を該当させることが甘くなって、自分の好まないものには厳しくなるだけに思えて、あまり無意味な基準のようにも思いますが、それでも少しだけ言わせて頂くと、「漫才とは二人(以上の人間)による制約のある会話の芸で、コントとは自由な芝居の芸」というような定義がありますが、僕はそれに思いきって異議を唱えてみたい。
それは「漫才の方が内容、設定、展開を、人の会話だけで展開させていける自由な芸であり、コントのほうが設定や台本などに縛られる限定芸である」というものです。漫才なら「宇宙にきました」の台詞ひとつで、いきりコンビにから月にも火星にも行けるけど、コントだと演技その他沢山のことが要求される。セットや小道具を立て込んでいた場合、暗転セットチェンジなどが必要になってくる訳で、実は漫才の方が自由度が高い芸と言えるし、芝居やパントマイムなどの、芸人としてのフィジカルな能力も、高いレベルで判断される場合、漫才よりも求められることになる。
そういう意味でコントは二人以上でやる落語、シナリオや台詞のあるパントマイム。という風に考えた方が進化の方向性や、それを演じる人達は自分がどこを鍛えればいいかというのが、より理解できる気がしている。
僕はどうしてもお客さんが「コントとしての純粋性」とか「真剣勝負としてのルール定義」といったものに拘るのなら、KOCは、お題縛りとか、セット縛りしたほうがいいと思う。白壁で白塗りしたダンボール20個まで使用可能とかした方が、より分かりやすいことにはなるとは思います。
最後にジャルジャルに関しては、改めてこのコンビが悪い所に填っている。それは「甘やかすファン」というのに囲まれている状況が、今回残念ながら浮き彫りになってしまった。友近、千鳥の名前が挙がっているが、10年後にはエレキコミックになっている可能性は、残念ながらあると言えるでしょう。「自分の笑いを理解してくれる人にだけ理解して貰えればいい、そのためには売れなくても良い」と思うには、ジャルジャルはまだ何も掴んでいないし、若すぎると思われる。この辺の話はまたゆっくりと出来る機会もあるでしょうが、笑い飯は二回目のM-1で「奈良民俗博物館」を披露して、八回目のM-1で「チンポジ」を披露した。ジャルジャルが二回目で「チンポジ」を披露したことをどう思うか、一方でやり切ったことを評価することもあるでしょう。でも10点満点で8.98点という平均採点を受けたのを、「こんな点が低いの?」と言われるのは、僕は盲目的なファンに囲まれる恐怖を感じてしまいます。
まだ話はありますが、最後に『レッドシアター』組は露出していて不利だったか? という話をしておこうかなと思いますが、これは無いんじゃないかなあ? だって今年の決勝だけでみても、ほとんどテレビでネタバレしていないのは、せいぜいピースぐらいしかいなかったんじゃないかな? ラバーガールでも『エンタの神様』とか出ていた訳なんだし、はっきりこっちのほうが視聴率も良かった訳なんだから、むしろロッチとか、TKOといった人達は、一回目この大会の決勝に出た時よりも、世間的にキャラクターが浸透したことで、良い方向に向いてることも多かったように思います。
しかしここまで考えも、やはり賞レースをテレビショーとして盛り上げていくためには、やはり物語性というのは不可欠な訳で、その為にも「芸歴」「出場回数」などの要件での出場条件の縛りというのは、今後何らかの形で必要になってくるでしょうね。

B004445KLMキングオブコント 2010 [DVD]
よしもとアール・アンド・シー 2010-12-22

by G-Tools
B0035JE586M-1 グランプリ 2009 完全版 100点満点と連覇を超えた9年目の栄光 [DVD]
よしもとアール・アンド・シー 2010-03-31

by G-Tools
B004071UDAR-1ぐらんぷり2010 DVDオリジナルセレクション 門外不出の爆笑ネタ集!
よしもとアール・アンド・シー 2010-10-06

by G-Tools