黎明期のひょうきん族に見るお笑いブームのプレイヤー変遷

「オレたちひょうきん族」パイロット版の感想その1 - 死んだ目でダブルピース

初期ひょうきん族は、今観ると当然ながらちょっとツラい部分も多いんだけど、それは熱のこもっていない態度で番組に参加していた一部の出演者のせいでもあると思う。

これは僕がスカパーを契約しだした頃に、楽しみにして見た『ひょうきん族』の再放送を見て、はっきりいってやっぱり現在見るのは厳しいかなと思った、正体だったというのが、いま振り返ると分かります。打倒ドリフという志と、漫才ブームもそろそろ手仕舞いだから、次に行かないといけないという危機意識を共有出来てない人が、はっきりと初期ひょうきんは足枷になっている。
とにかくたけしとさんまがエース、鶴太郎と山田邦子が準エース、困った時はエースにもなれる二番手として、紳助とサブロー・シローがいて、ヒップアップ、コント赤信号ウガンダが脇を固めて、スーパーサブの飛び道具としてのりおとおさむが控え、アクセントとしてうなずきトリオがいる。という図式が完成したあたりで、ようやく面白かった『ひょうきん族』というのが出来上がっていく。
そして赤信号のリーダーと、ヒップアップの島崎さんが一本立ちするようになると、それぞれひょうきん族的には、後々フェードアウトしていくことになる、サブシロやおさむさんの変わりを担うようになり、変わって脇をたけし軍団何人トリオが支えるようになってきて、ひょうきん族は完成するわけですが、そうなるまでがやっぱり今見ると辛いという感想しか出てこない。本当に素直に見たら、普通につまんないんだ。ただ当時やっていた実験とか、準備という事を考えると、見るべき所は沢山ある。
でもとにかくこの番組は、この番組におけるナイナイやはんにゃが決まるまでがしんどい。たけしとさんまをエースで行く。いやもっと言うと、この番組でさんまと鶴太郎と山田邦子をスターにする。そう決断するまでは、もう本当に助走期間で漫才ブームの残り香だけに頼って、その余韻で引きつけている間に、次を探しているというのが、初期にはあったネタをさせるコーナーを見ていると、本当に良く分かります。もっというとたけしさんがウッチャンで、さんまさんと鶴太郎さんがはんにゃやジャルジャル、そして山田邦子柳原可奈子という図式化かも知れない。
そしてさんまと鶴太郎はコント55号のコピーを完璧にやってのけるという、今や伝説となっているコントをやり遂げ、山田邦子と共に、漫才ブームの次の時代の主役として、ひょうきん族の中枢を担うのですが。ここでやっぱり注目すべきは、たけしと紳助が残ったということなんですよ。年齢的に上なたけしはもちろんですが、紳助は歳はさんまと同じでも、漫才ブームにのれていたわけで、年齢はともかく時代的には旧世代扱いを受けてもおかしくなかったわけです。
だからひょうきん族がさんまがエース、鶴太郎が準エース、山田邦子が紅一点という体制でやってもおかしくないのに、たけしと紳助が残ったというのは、それこそ『爆笑レッドシアター』に、はんにゃやジャルジャルに混じって、ますだおかだフットボールアワーが、対等な立場のレギュラーとして残ったぐらいのことなのです。まあたけしさんがますおかで、紳助さんがオリラジといったほうが、例えとしてはより適切かも知れませんが。一世代前に追いやられかねない人が、本来なら新しいことをする人達にとって、仮想敵になってしかるべき立場にいながら、次のブームに居残って中心にいたことに、たけしと紳助の凄さがある。
太平サブロー・シロー漫才ブームには乗っかっていたけど、同じく番組初期のレギュラーだった、春やすこ・けいこ共々、漫才ブームの終盤に出てきた若手で、ここでも活躍したけど、次の時代の活躍も合わせて期待されていたような若手として出ていた。ということは押さえておいても良いと思う。それは計算が出来る紳助が、紳竜解散の際に「サブロー・シローとダウンタウンには勝てない」という名言を残したことでも明らかです。
だから漫才ブームからひょうきん族、ドリフからひょうきん族という流れは、演芸からスタジオコント、ライブや寄席からテレビバラエティというシフトチェンジだったんですが、時代は繰り替えという事を考えれば、来るべき漫才や演芸への寄り戻しの時代に備えて、吉本が待機させていたのが阪神・巨人であり、次の世代の漫才師としてダウンタウンがいたわけです。
スタジオコントのひょうきん族が終わって、次にまた来るであろう漫才ブームに備えて、阪神・巨人、サブロー・シロー、ダウンタウンの三頭体制で迎え撃つという吉本の戦略は、阪神・巨人をあえて漫才ブームに乗せなかったということや、紳助のように計算出来る人が、後の二組にプレッシャーを感じて、漫才師から引退したことを考えると、それは容易に想像出来るわけです。
しかしこの戦略はサブロー・シローの独立と、ダウンタウンの漫才からスタジオコントへの強い移行の意志で、実現することはありませんでしたが、僕は当時そこまでのことを考える人は、少なくとも吉本にいたのではと思う状況証拠が揃っていると思っています。そしてサブロー・シローが、吉本を離れたことで、本当ならば時代のエースとして、チャンスを二組で分け合うことになっていたのが、ダウンタウンにそのリソースが集中したことが、後々のダウンタウンの時代を生んだとも言えると考えていますが、紳助がM-1グランプリという大会をプロデューサーとして生み出すまでの、長い漫才低迷期を迎えることにもなります。
時代がだいぶ後の時代まで進んでしまったので、少し話を戻しますが、明らかにNEXT漫才ブームとして立ち上げられた、ひょうきん族において、さんま、鶴太郎、山田邦子、赤信号、ヒップアップが選抜されていき、ビージーフォーでウガンダだけが残ったり、前の時代のブームからたけしと紳助が残り、違う文脈で、のりおさんだけがまた残っていくという流れを見ながら、ひょうきん族の再放送を見ていくと、より重層的な楽しみ方、それこそ歴史大河ドラマを見るように、80年代のテレビお笑い戦国史としての楽しみがあると、言えるのではないでしょうか?
でも初期の小朝師匠や高田純次を持て余すところや、八方師匠や関根さんを新メンバーとして明らかに試用期間の準レギュラーにしながら、定着出来ずにいつの間にかいなくなっていくところとかは、お笑いファンならば、是非とも今の目線で記録として、ひょうきん族の再放送は見ておくべきだと思います。

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